呉保安の物語

（牛粛　著「紀聞」より）

前野直彬　編訳

『唐代伝奇集２』

初版1964年4月10日

平凡社

感想など

実話に基づいた小説。

新唐書・列伝116・忠義上にも出ているが、新唐書の記述がシンプルなのに比べかなり生々しい。たとえば、郭仲翔が蛮族に捕まって、奴隷として下賜された時、仲翔の主人になった人は自分と同じものを食べさせ、親切にしてくれたという。それでも故郷が忘れられなくて逃亡するともっと南の部族に売られ、更に逃げるともっともっと南の部族に売られ…（中略）…て最後の主になった人は、逃亡癖のあるこの奴隷（仲翔）の足にクギで板を打ち付け、夜は土牢に仕舞っておいたという。実際あったんだろうな、と頷ける内容だ。

郭仲翔が捕虜になった戦いは、例の天寶の唐が南詔に敗れた戦いではないようだが、この『唐代伝奇集２』にはこの他にも、神仙の術を使う紅綫という女性が、術を使う準備として「髪は烏蛮の髷に結いあげ」るシーンもあり（「紅綫の物語」）、当時の唐の人々に大きなトラウマを残したらしい様子がうかがえて面白い。